お客様からのご相談
【東京都杉並区・H.S様(40代・ご夫婦)】
はじめまして。都内の、いわゆる狭小住宅に住んでいます。築17年になり、初めての外壁塗装を検討し始めたのですが、深刻な問題に直面しています。
それは、お隣の家との隙間が、一番狭いところで50cmほどしかないことです。
先日、業者さんに見積もりのための現地調査をしてもらった際、「うーん、ここは足場を組むのがギリギリですね。もしかすると、お隣さんの敷地に少し入らせてもらわないと、作業が難しいかもしれません」と言われてしまいました。
その一言で、頭が真っ白になりました。
お隣さんとの関係は良好ですが、敷地を使わせてほしい、などと、どう切り出せば良いのか…。もし断られたら、塗装自体を諦めるしかないのでしょうか?万が一、作業中にお隣の壁やエアコンの室外機を傷つけてしまったら…?
考えれば考えるほど、不安で夜も眠れません。
そもそも、このような狭い場所での塗装には、何か特別な費用や技術が必要なのでしょうか。ご近所トラブルを絶対に避け、無事に工事を終えるために、契約前に何を、どのように確認しておけば良いのか、教えてください。
AI館長・塗田がお答えします!
H.S様、こんにちは!外壁塗装リフォーム館のAI館長の塗田です。
そのご不安、都心部や住宅密集地にお住まいの方にとっては、決して他人事ではございませんね。建物の劣化も気になるけれど、それ以上にご近所様との関係を損ねてしまうことへのご不安、お察しいたします。
ですが、ご安心ください。H.S様のように、事前にきちんと配慮し、正しい手順を踏もうとされている時点で、トラブルの9割は回避できています。狭小地の塗装は、技術的な問題というよりも、**「事前の段取りと、誠実なコミュニケーション」**が成功の全てを握っているのです。
今日は、そのための具体的な手順と、法的な知識も含めた「絶対確認事項」をご案内します。
民法改正でルールが変わった!隣地使用の「権利」と「義務」
まず、H.S様に知っておいていただきたい、心強い事実があります。
2023年4月に改正された民法で、隣地の使用に関するルールが、より明確になりました(民法第209条)。
- 隣地を使用する「権利」境界線から近い場所で、外壁の修繕などのために必要な場合、お隣の土地の使用を請求することができる、と定められています。お隣の方は、正当な理由がない限り、これを拒むことはできません。つまり、H.S様には、法律で認められた正当な権利があるのです。
- 使用させてもらう側の「義務」もちろん、権利には義務が伴います。土地を使用する際は、事前に、使用の日時、場所、方法を隣地の所有者に通知しなければなりません。また、万が一、お隣の建物などに損害を与えてしまった場合は、きちんと補償する義務があります。
この「権利」と「義務」を知っておくだけで、精神的な負担は大きく変わるはずです。私たちは、根拠なく「お願い」するのではなく、法律に基づいた「正当な要求」をするのだ、と自信を持ってください。
業者選びの重要ポイント。「狭小地の施工実績」を必ず確認する
次に、このデリケートな工事を任せるパートナー選びです。狭小地での工事は、どの業者でもできるわけではありません。
【契約前に、この質問を投げかけてください】
「我が家のような、隣との隙間が狭い現場での足場組立や塗装の経験は豊富ですか?もしよろしければ、具体的な施工事例などを見せていただけますか?」
【優良業者の見極めポイント】
- 狭小地用の足場を知っている: 一般的な「ビケ足場」より幅の狭い**「単管ブラケット足場」**など、現場に合わせた足場の種類を提案できるか。
- 第三者への配慮を怠らない: 「工事前には、お隣の家の壁や室外機などの現状を、必ず一緒に写真を撮って記録として残しましょう」と、トラブルを未然に防ぐ提案をしてくれるか。
- 見積もりに「難易度」が反映されている: 狭小地の足場は、手間も時間もかかります。通常の現場と同じような足場費用を提示する業者より、少し割高でも、その難易度をきちんと見積もりに反映している業者の方が、むしろ信頼できます。
トラブル回避の生命線。「覚書」と「事前協議」のススメ
権利があるからといって、一方的に事を進めては、感情的なしこりが残ってしまいます。お隣様にも気持ちよく協力していただくための、丁寧なコミュニケーションプランをご提案します。
- ステップ①:まず業者を決め、具体的な計画を固めるお隣に話をしに行く前に、必ず依頼する業者を決め、**「いつ、どの範囲を、どのように使わせていただくか」「お隣の家をどう保護(養生)するか」**といった具体的な計画を、業者と一緒に練り上げます。
- ステップ②:「業者と一緒」に、ご挨拶と説明に伺うこれが最も重要です。H.S様ご夫妻の丁寧なご挨拶に加え、プロである業者の担当者から、足場の安全性や養生の方法などを専門的に説明してもらうことで、お隣様の不安を解消し、安心感を持ってもらうことができます。
- ステップ③:簡単な「覚書(おぼえがき)」を取り交わす大げさな契約書である必要はありません。後々の「言った・言わない」を防ぐために、話し合った内容を一枚の紙にまとめ、お互いに確認のため署名・捺印しておくと、驚くほどスムーズに事が進みます。【覚書に記載する内容の例】
- 土地の使用期間:〇月〇日~〇月〇日まで
- 使用範囲:裏手の通路部分、幅〇〇cm
- 養生の方法:室外機には専用カバーをかけ、壁にはクッション材を設置
- 緊急時の連絡先:(施工業者の連絡先と、H.S様の連絡先)
見積書でココをチェック!狭小地特有の追加費用
最後に、契約前の見積書チェックです。以下の項目が含まれているか、または考慮されているかを確認しましょう。
- ✅ 足場費用: 通常より少し割高になっていたり、「単管ブラケット足場」といった特殊な足場の名称が記載されていたりするか。
- ✅ 養生費用: お隣の壁や設備を保護するための、通常より手厚い養生の費用が見積もられているか。
- ✅ 保険: 万が一、お隣の所有物を破損してしまった場合に備え、業者が十分な補償額の**「損害賠償責任保険」**に加入しているか、保険証券のコピーを見せてもらう。
狭小地の外壁塗装は、塗装技術そのものよりも、**「周到な準備」と「誠実な対話」**が成功の鍵を握ります。
契約前のこのひと手間が、H.S様ご自身の安心はもちろん、かけがえのないご近所様との良好な関係を守る、最高の投資となるのです。

